予防と健康管理ブロックレポート            

@はじめに

 平成19年4月10日に予防と健康管理ブロック講義の一環で視聴したビデオと、規定されたキーワードに沿って自分で調べた論文について考察する。

 

A選んだキーワード:mentalhealth   brainfunction

 

B選んだ論文の内容の概略

 論文の題名は「Role of micronutrient for physical growth and mental development」というもので、ビタミンやミネラルといった微量栄養素の摂取不足によって身体や精神の発達障害や免疫力の低下が引き起こされるということが述べられている。ビタミンとしてはvita-minA,E,C,D,B2,B6,folic acid(葉酸)などがあり、ミネラルとしてはiron(鉄),zinc(亜鉛),selenium(セレン),copper(銅)などがある。これらはgreen leafy vegetable(緑色野菜)やdairy product(乳製品)などの日頃食べている食品に含まれているが、しかしこれらのみではRDArecommended dietary allowances、一日あたりの摂取勧告量)に満たないのでサプリメントなどの補助食品の利用を勧めている。これら微量栄養素の摂取不足によって様々な症状が引き起こされるのであるが、それらの症状は大きく分けて身体の発達障害、精神の発達障害、それと免疫力の低下の3つに分けられる。

 微量栄養素の不足によって酵素やホルモンの合成が阻害されるとエネルギーの産生や核酸の合成、フリーラジカルからの防御などがうまくいかなくなる。すると細胞の成長や分裂が阻害されて細胞の増殖がうまくいかず、逆に細胞の傷害を防げなくなるので細胞はどんどん減っていく。そうして身体の成長が阻害されるのである。

 微量栄養素の不足の影響は一般の細胞に比べて神経系の細胞により強く現れる。神経系の細胞では酵素や補因子の合成阻害により神経伝達物質の合成がうまくいかなくなる。また、n-3系脂肪酸やDHAなどは神経系の細胞膜の構成要素として重要だったり、その他様々な重要な作用を持っているのでこれらの不足で細胞構築がおかしくなる。神経伝達物質の合成や細胞構築の異変によって神経系の発達が阻害されると精神の発達に障害が起こる。

 微量栄養素の不足によって細胞の成長・分裂や細胞傷害からの防御がうまくいかなくなると、免疫系の機能にも影響が現れる。すると微生物の感染や腫瘍の発生が起こりやすくなるのだが、それによって微量栄養素の吸収が低下するのでさらに免疫系が働かなくなる、という悪循環におちいってしまう。

 微量栄養素の不足は単一の栄養素について起こることはむしろまれで、多くの場合は複数の栄養素が不足しているので症状は多岐にわたり、治療は困難になる。そしてこれらの症状は出生前3週から生後3週の間の微量栄養素の不足によって最も顕著に現れる。そのため特にこの時期は微量栄養素が適正に含まれた食事が望まれる。母親の母乳は特に注意が必要であり、健康であり、かつきちんとした知識を持った母親が育てた子供は健全に育つ。この場合母乳だけではなくサプリメントも併用すればなおよい。そのようにしてこの時期の乳幼児の栄養不足をなくすようにすることこそが一国の繁栄の基盤を作るのである。

 

Cビデオの内容も含めた考察

 ビデオは30代の鬱病が近年増えているという内容のものであったが、その原因は職場のストレスにより副腎が刺激され、それによってこの副腎から放出されるストレスホルモンによって鬱病になる、ということであった。さらにストレスはアポトーシス誘導酵素の発現を低下させるので細胞の癌化が起こりやすくなる、ということも述べられていた。

 一方、この論文では食物に含まれる微量栄養素の摂取不足によって精神の発達が阻害されるということが書かれていた。また、同様に微量栄養素の摂取不足によって免疫力の低下が引き起こされるということも書かれている。ストレスと微量栄養素というまったく異なる要因が精神と免疫という同一の作用に影響を与えるのはどういうことなのであろうか。このことについて考えてみたいと思う。

 ストレスという言葉は日常生活でごく頻繁に使われているが、その強度は外因刺激であるストレッサーの強さとその刺激を受ける人の感受性の積で表される。一方、微量栄養素

の過不足は摂取量の過不足に加えてその人の要求量、すなわちその人の活動度や遺伝的要因を考慮したうえでの適切な量を考えなければならない。つまりどちらも体外から与えられる絶対的な量と、その人の特性によって上下する相対的な量という2種類の要素を考えなければならないのである。

 体外から与えられた刺激は感覚器を経て感覚神経を伝わって中枢である脳へと行く。この際その人の感受性に応じて脳に伝わる刺激強度が変わってくる。この刺激により脳から副腎へ至る神経が興奮して副腎からストレスホルモンが血中に分泌されるのだが、この分泌量は脳に伝わる刺激強度によって変わってくるので、結局同じ刺激を受けてもその人の感受性によって分泌されるストレスホルモンの量が変わってくる。そうして分泌されたストレスホルモンは様々な臓器に作用して様々な反応を引き起こす。例えば心筋や血管平滑筋に作用して血圧を上昇させたり、交感神経細胞に作用してその活動を高めてその結果不眠に陥ったり、消化管粘膜に作用して食欲不振を導いたりする。このような様々な生体反応の結果として神経系の活動に異常が起こり、鬱病へと進行するのだと考えられる。また、ストレスホルモンが細胞に作用してその細胞のアポトーシス誘導酵素の発現を低下させるので、先ほどの生体反応に伴う恒常性の変化によって細胞が傷害を負ってもその細胞をアポトーシスに導くことができず、癌化が起こりやすくなる。

 一方、微量栄養素の不足によって神経伝達物質を合成する酵素が少なくなって結果神経伝達物質の合成量が低下したり、細胞膜の構成要素が少なくなって細胞膜の合成に異常が起こったりする。そうすると神経系全体の正常な働きも阻害されるので、精神の発達にも影響するようになる。また、微量栄養素の不足によって細胞の成長・分裂が阻害されて免疫系の細胞の増殖や分化がうまくいかなくなったり、細胞傷害からの防御が阻害されてフリーラジカルの影響を受けやすくなるので細胞の癌化が起こりやすくなる。

 このようにストレスと微量栄養素では体に作用する機序が全く異なる。ストレスでは神経系と内分泌系を経て組織に作用するのに対して、微量栄養素では生体に重要な物質の構成成分が不足することでその物質が不足して、その結果が組織に影響する。

 ではなぜ作用機序が異なるのに同じように精神や免疫の異常を引き起こすのであろうか。おそらく単純に精神活動や免疫機能といった統合的な機能は複雑なネットワークを形成しているので、ストレスと微量栄養素といった一見してあまり関連のなさそうな要因でもそれぞれの障害でネットワークがうまく機能しなくなり、同様の結果を示すのであろう。

 仮にそうだとすると、ストレスと微量栄養素の作用強度における相対的な相対的な側面、つまりその人の今までの生活や現在の状態、遺伝的な要因などの特性によって作用強度が変化することはどのように考えたら良いのだろうか。

 このこともまた単純に考えてみれば良いのかもしれない。さきほど精神活動や免疫機能は統合的な機能であると述べたが、それはこの機能が人間の生活に非常に重要だからである。非常に重要なので常に正常に働いていなければならないのであるが、その機能の強弱を調節する因子(この場合ストレスや微量栄養素)は不規則に外界からやってくるので、その不規則なリズムに重要な機能(精神活動や免疫機能)の強弱が左右されないように、いわば動的平衡な状態で正常の範囲におさまるようにする必要がある。そのために外界からの因子だけでなく主体的に生体機能の強弱を調節できるように、過去の経験、現在の状態、遺伝的要因(未来)といったその人の特性によって変化するような因子が機能の強弱に関係するのだと考えられる。

 つまり、非常に重要な機能である精神活動と免疫機能を常に適正に働かせるために、その機能に影響を与える因子に外因性の側面(ストレスではストレッサー、微量栄養素では摂取量)と内因性の側面(ストレスでは感受性、微量栄養素では活動度や遺伝的要因)の2つの側面があり、外因性の側面が強かったら内因性の側面を弱め、外因性の側面が弱かったら内因性の側面を強める。そのようにして外界の不断の変化に対応しているのであろう。

 そのように考えると、鬱病や栄養失調といった周囲の環境悪化によって一方的に引き起こされたものと考えられていた疾患でも、例えば体温や血糖値の恒常性が阻害されると健康ではいられなくなるのと同じように、恒常性が維持できなくなったために起こったのだと考えることができる。

 

Dまとめ

 mentalhealthbrainfunctionという2つのキーワードにを含む論文をPubMedで探してみてヒットした「Role of micronutrient for physical growth and mental development」という論文の概略を書いた。そしてビデオで見たストレスと鬱病・癌化の関係と、論文に書いてあった微量栄養素の摂取不全と精神の発達障害・免疫機能の低下の関係を照らし合わせて、なぜストレスと微量栄養素という一見つながりのなさそうな要因によって同じように精神活動と免疫機能に影響が出るのかを考えてみた。それによって鬱病や栄養失調といった病気の発症が実は恒常性が維持しきれなくなったためなのではないかと考えるようになった。